― ロードトリップ1日目・午後|サン・グレゴリオ・ステート・ビーチ、ルート84の終点で見た 「過去・現在・未来」(1991)―

View from the parking lot at San Gregorio State Beach in 1991, featuring a wind-shaped Monterey cypress, the mouth of the San Gregorio River, and the beginning of California Route 1.
San Gregorio State Beach, CA, USA — May 1991 ·Velvia 50

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ROAD TRIP 1990–1992


1991年5月。ナビもスマートフォンもない時代、紙の地図だけを頼りに始まったロードトリップ。1日目午後の、サン・グレゴリオ・ステート・ビーチ(San Gregorio State Beach)での記録。いよいよ始まるカリフォルニア ルート1(California Route 1)のドライブ。その直前に引き止められた、パークングから見た劇的なビーチの風景について語ります。


カリフォルニアの自由な午後の日差しが、じりじりと肌を焼いていた。
ここはルート84の終点、サン・グレゴリオ・ステート・ビーチ(San Gregorio State Beach)の駐車場。

太平洋の咆哮(ほうこう)を全身に受けながら、疲れた頭をからっぽにして過ごす時間は最高だった。
潮風、容赦のない太陽、そしてただそこに広がる圧倒的なブルー。
頭の中にあった不安なものが、いつの間にか消えていた。

車のドアを開け、おもむろにドライバーシートへと腰を下ろした。
日差しで熱せられたシートが、「早く出発しろ!」と急かすように不快な熱を伝えてくる。
だが、キーをイグニッションに差し込み、回すの手を止めた。
フロントウィンドウの向こうに広がる景色が、あまりにも劇的だったのだ。
もう一度、じっくりとこの海を振り返り、Velviaに収めておきたくなったのだ。
車のシートに置いてあった相棒のCanon T90を手に取り、ファインダーを覗き込んだ。

終わった旅と、これから始まる旅の境界線

カメラを構えた瞬間、そこに映し出されたファインダー像に小さく息を呑んだ。
こんな決まった写真は、そう何度も撮れるものではない。

人は旅に出ると、ついつい先を急ぎたくなる。
特にあのころの自分は、アクセルを踏み込むことばかりを考えがちだった。
だけど、この時は違った。
「海へ着いたんだから、さあ出発だ!」
と飛び出すには、目の前の景色が引き留める力が強すぎたのだ。

エンジンをかける前の、わずかな静寂。
それは、押し寄せる未来へのワクワク感を、あえて一度自分の中に飲み込むための深呼吸のような時間だった。

サン・グレゴリオ川との別れ(過去)

最も手前に、砂浜のすぐ脇をひっそりと流れる水溜りのようなものが見える。
それが、サン・グレゴリオ川(San Gregorio River)の河口だった。

「あぁ、そうだった」
と胸の中で小さく声を上げた。
この川は、ルート84を走ってきた間、ずっと並走してくれていた相棒だったのだ。

あの鬱蒼とした、巨大なウッドサイド(Woodside)の森の中、
フォー・コーナーズ(Four Corners)の交差点を抜け、
霧のベールに包まれたラ・ホンダ(La Honda)の赤い納屋を通り、
のどかなサン・グレゴリオ(San Gregorio)の田舎道を走った時も、
この川は、時々離れながらも、どこか近くにいた。
穏やかに、緑の隙間からキラキラと光を放っていたあの川。
それが今目の前で、音もなく太平洋の巨大なブルーに吸い込まれ姿を消そうとしていた。

自分より一足先に、あの川は旅を終えていたのだ。
山を下り、丘を抜け、ついに目指すべきゴールである海へと到達した川の終焉。

「お疲れさん、おかげでいい旅だったよ」

飲みかけのぬるいRCコーラを一口すすりながら、心の中でその小さな流れに乾杯した。
川の旅がここで終わるように、ルート84もここで終わったのだ。

The San Gregorio River nearing the end of its journey as it flows into the Pacific Ocean at San Gregorio State Beach, California, in 1991.
San Gregorio State Beach, CA, USA — May 1991 ·Velvia 50

風が造ったサイプレス(現在)

視線を少し上に移すと、中央に堂々とそびえ立つ一本の巨大な木が、嫌でも目に飛び込んでくる。
カリフォルニアの海岸線を象徴する、モントレー糸杉(サイプレス)だ。

どうやら、右側の海から強烈なアッパーカットを喰らい続けて、そのままの形でフリーズしてしまったようだ。
すべての枝が左側、つまり陸地側へと不自然に傾き、引きちぎられんばかりに伸びている。

この木を形造ったのは、今この瞬間も僕の横顔を叩いている「太平洋の風」そのものだった。
海からの容赦ない風が、何年、何十年という歳月をかけてこの形を造り出してきたのだ。

さっきサン・グレゴリオ(San Gregorio)の、のどかな牧場を走っていた時にも、同じ木をいくつか見かけた。
しかし、この極端に曲げられた樹形こそが、環境の違い、つまり今、タフな場所に足を踏み入れているという証拠だった。
その興奮が、じわじわとアドレナリンとなって体を巡るのを感じた。

A Monterey cypress bent by decades of Pacific winds stands above the San Gregorio River estuary on California's coast, photographed in 1991.
San Gregorio State Beach, CA, USA — May 1991 ·Velvia 50

丘の向こうのルート1(未来)

そして、視線は最も遠くの巨大な岩の丘へと導かれる。
そこには、一本のコンクリートの橋が架かり、その先で道路が空に向かって消えていた。

それこそが、今回のロードトリップの真の主役。
これから挑む「カリフォルニア ルート1(California Route 1)」だった。

その滑らかなアプローチから、一気に駆け上がる最初の登り坂を見上げる。
すると、どうしても遊園地でジェットコースターに乗った時の、あの独特な高揚感を思い出してしまう。
チェーンに引っ張られながら登っていく最初のリフトヒル。
あの緊張感と、その後に待っている絶叫へのワクワク感。

あの丘の向こうには、一体何があるのだろう?
どんな見たこともない絶景が、
どんなハプニングが、
どんな出会いが待ち受けているのだろう?

ルート1は「さあ、いよいよお前の走る番だぞ」と言わんばかりに、立ちはだかっていた。
バックミラーで、自分の日焼けしたマヌケな顔を確認した。
よし!そろそろ行くか。

California Route 1 crossing the mouth of the San Gregorio River at San Gregorio State Beach, photographed during a 1991 road trip along the California coast.
San Gregorio State Beach, CA, USA — May 1991 ·Velvia 50

1991年に向けて、アクセルを踏み込む

フィルムカウンターに目を落とすと「36」だった。
このVelviaに残された、最後の一コマだ。
「カシャリ」と乾いたシャッター音が、ルート84の終わりを告げた。

Canon T90を助手席へ放り、イグニッションキーを力強く回した。
車体がブルブルと小刻みに震え、排気ガスの匂いが風に混ざる。

ダッシュボードのチープな液晶時計は、1991年初夏の最高に自由な午後を刻んでいた。
まだ陽は高い。
太陽が沈むまで、南へ走ろう。

ブレーキペダルから足を離し、アクセルを踏み込んだ。
タイヤが、少しだけ砂利を噛んで鳴いた。
1991年の風を切って、ルート1の旅が動き出した。

旅は続く

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