— ルートビアはなぜ湿布の味? ビールと間違えて飲んだ衝撃体験 —

Vintage laundromat sign from 1990, where a first encounter with root beer turned into a shocking experience
Sacramento, CA, USA — Dec 1990 · Velvia50

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ESSAY


1990年、アメリカで初めて手に取った一本の缶。そこに書かれていたのは「Beer」という見慣れた単語でした。疑うことなく口にしたその一口が、想像を裏切る強烈な味と香りとなって襲いかかる——それが、ルートビアとの最初の出会いでした。なぜルートビアは「まずい」と感じるのか。その理由は味そのものではなく、記憶と文化に深く結びついた“香りの正体”にありました。本記事では、ビールと勘違いして飲んだ実体験をもとに、ルートビアの味の正体とアメリカ文化との関係をひも解いていきます。

当時のアメリカでは、こうした発見が日常のあらゆる場所に存在していました。
「1990年代アメリカ体験記|現地で感じた文化の正体」
1990年代アメリカで体験した味のカルチャーショックを一覧で見る

プロローグ

1990年、最初のアパートでの出来事だった。

家具は最低限。家賃はやけに安く、天井はやけに高い。
そして、部屋に洗濯機がなかった。

敷地の隅に設置された、無駄に広いコインランドリー。
ああいう場所は、だいたい何かが始まるか、何かを間違える。

その日は、こともあろうに両方だった。

衝撃

洗濯機にコインを放り込み、ドラムを回し始める

乾燥した気候のせいで、やけに喉が渇いていた。
隅にあった自販機で飲み物を買った。

見慣れない缶。
でも「Beer」と書いてある。
ビールだと思った。
疑う理由がない。むしろ疑う方が失礼だ。

──それがすべての間違いだった。

名前に「Beer」とあるけど、
それは一切ビールではなかった。

プルタブを開けて、一口。
まず、強烈な甘さ‥‥‥
ここまではいい。
アメリカだし、まあそうだろう。

問題はその直後だった。
ポマード‥‥‥そしてサロンパス‥‥‥
時間差で、鼻の奥にそれが来た。

「味」じゃない。

“記憶にある何か”が、口の中で暴れ出した。

次の瞬間、反射的に外に飛び出した。
気がつくと、コインランドリー脇の下水溝に吐き出していた。
あんなに迷いのない行動は、人生でもそう多くない。

思った‥‥‥
世の中に、こんなに不味い飲み物があるのか。

名前の裏切り

あとで知った。

あの「Beer」という言葉は、自分が思っていた“ビール”とは全く別物だった。
Root Beerの「Root」は、植物の根のこと。
そして「Beer」は、発酵して泡が出る飲み物、という広い意味の言葉だった。

昔は砂糖と酵母で軽く発酵させていたらしい。
少しだけアルコールのある、ビール“みたいな”飲み物だった。

つまりあれは、根っこを煮出して発酵させたドリンク。

名前は、何ひとつ間違っていなかった。
間違っていたのは、勝手にキンキンに冷えたラガーを想像した自分のほうだった。

衝撃の理由

匂いの犯人は、サッサフラスという植物だった。

Root Beer特有のあの香り。
あれは、ハーブ由来のものらしい。

ただし、問題はそこじゃない。
問題は、それが何に似ているか、だ‥‥‥

どう例えてもこうなる。
コーラにポマードとサロンパスを混ぜた味。

つまりこれは、味覚の問題じゃない。
“記憶”が拒否している。
あの時、体がこう叫んだ。
「それは飲むものじゃない!」と。

もともとは「薬」だった

さらに話はややこしくなる。

Root Beerはもともと、薬草ドリンクだった。
いわゆるハーブトニック。

19世紀のアメリカでは、消化促進・滋養強壮、そんな目的で飲まれていた、民間薬。つまりあの味は、間違っていない。
最初から薬だった。

ちなみにこの流れ、Coca-Cola と同じだ。
あちらも元は薬。こちらも元は薬。
ただし、味の方向が違いすぎた。

禁止された「本物の成分」

さらに追い打ちが来る。

元祖のサッサフラスには、サフロールという成分が含まれていた。
これが1960年代、発がん性の疑いありということで使用禁止になる。

じゃあ今のRoot Beerは何なのか?
答えはシンプルだ。
人工的に“あの味”を再現している。

つまり、ご丁寧にあの薬っぽさを再現した飲み物にしている。
これもCoca-Cola と似た構造になっている。

アメリカ人はなぜ平気なのか

ここがいちばん面白いところだ。

アメリカでは、Root Beerはどこでも普通に売っている。
そして同じ香りが、キャンディ、ガム、アイスなどに使われている

つまり彼らにとっては、以下の公式が成り立つのだ。

お菓子の匂い=楽しい記憶

対比構造

  • 日本人:薬の記憶 → 拒否
  • アメリカ人:お菓子の記憶 → 好物

同じ味なのに、意味が完全に逆転している。

そうか!あの日、自分が下水溝に吐き出したのは、味じゃなかった。
文化だったのだ。


朧いたのは、味だけではありませんでした。
→ 食感までも違っていた驚きの体験記はこちら

ブランドの違い

ちなみにRoot Beerにもいくつか種類がある。

  • A&W Root Beer → 甘くてバニラ強め。初心者向け
    (らしいが‥‥‥初心者とはいったい何なのか?深く考えさせられる)
  • Barq’s Root Beer → 炭酸強めでやや辛口。(逃げ場はない)
  • Mug Root Beer → マイルドで飲みやすい。(と言われても、絶対に信用はしない!)

最初にどれを飲むかで、人生が大きく変わる。

エピローグ

あの味は、舌で感じているんじゃない。
記憶の中で、拒否されているだけだった。

あれから40年近く経った。

どうやら日本にも、あの味を受け入れる変態が増えているらしい。
そして困ったことに、今では日本でも普通に手に入る。

記憶というのは、上書きされる。
あの日、下水溝に捨てたはずの味を、なぜか時々思い出してしまう。
そして、ごくたまに。
自分でも信じられないことに、あれをもう一度、飲んでみたりする。

あの日の懐かしさを噛み締めるために。


今回の味や味覚の「なんでそうなの?」という違和感
他にも、食べ物に関する違和感がありました。
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