
DISCOVERING AMERICA
アメリカでは、何かを契約しようとすると必ず聞かれる質問があります。「SSNある?」——それは単なる事務的な確認ではなく、その人が社会に参加しているかを示す合図でもあります。1990年代初頭のカリフォルニアでの体験から、SSNという社会保障番号の意味と、その背後にある信用社会の仕組みを見ていきます。
日本人が最初に驚く質問
カリフォルニアに着いてしばらくすると、同じ質問を何度もされるようになった。
「SSNある?」
日本から来たばかりの自分には、まるで秘密の暗号のように聞こえた。
SSN‥‥‥
それは Social Security Number のことだった。
銀行でも聞かれる。
電話会社でも聞かれる。
何か契約しようとすると、だいたい最初に聞かれる。
「SSNある?」
あるわけがない。
持っていないと言うと、相手は少しだけ困った顔をする。
そしてこう言う。
「じゃあパスポートでいいよ」
この瞬間、日本から来たばかりの人は気づく。
アメリカは、名前より先に番号を聞かれる社会なのだと。
ソーシャルセキュリティーナンバーとは何か
SSNはもともと、アメリカの社会保障制度のために作られた番号だ。
発行しているのはSocial Security Administration。
1936年に始まった制度で、目的はシンプルだった。
- 年金
- 税金
- 就労記録
これらを一つの番号で管理すること。
ところがアメリカでは、便利なものはすぐに用途が広がる。
気がつけばSSNは、単なる社会保障番号ではなくなった。
銀行口座。
クレジットカード。
保険。
契約すべてに登場する。
つまりSSNは、実質的にアメリカ社会の信用番号(Credit ID)になった。
言い換えれば、ほとんど 国民ID のようなものだ。
SSNがないと何もできない国
1990年代のアメリカでは、SSNは本当にあらゆる場面に登場した。
例えばこんなときだ。
- アパート契約
- 電話契約
- 銀行口座
- 車の保険
- クレジットカード
すべてに共通するのは、「信用情報(credit history)」という考え方だ。
この人は信用できるか。
それを判断するために使われるのがSSNだった。
番号がある。
すると履歴ができる。
履歴があると信用が生まれる。
つまりアメリカでは、
番号 → 履歴 → 信用
という順番で社会が動いている。
取得できる人
ただし、この番号は誰でももらえるわけではない。
SSNを取得できるのは基本的に次の人たちだ。
- アメリカ市民
- 永住者(グリーンカード保持者)
- 就労資格のある外国人
観光客や留学生はもらえない。
実際、自分も一度試してみた。
90年代初頭は、インターネットのない時代。
直接、社会保障事務所(Social Security Office)に行って聞くしかなかった。
SSOは建物は役所だけれど、雰囲気は銀行のロビーのようだった。
ここでSSNの番号をもらうために、まずは順番待ちの番号をもらう。
番号が連番で印刷された紙テープが、ケースに入って壁に設置してある。
そのケースから飛び出た紙テープの先端を、ちぎり取るのだ。
それが日本で言う番号札となる。
極めてアナログ的なシステムである。
ここにもシンプルさゆえの合理性を感じる。
順番が来ると、窓口の女性に聞いてみた。
「日本人でもSSN作れますか?」
その女性は笑って答えた。
「働く人ならね」
その一言で、僕のSSN計画は終了した。
観光気分の外国人には、社会保障番号はくれないらしい。
アメリカで働き、アメリカに税金を納めている人。
その人たちのための番号なのだ。
観光客や留学生には必要ない。
社会に参加していないからだ。
当然といえば当然だ
これはSSNの話だけではありません。
アメリカ社会の設計の一部です。
→ 日米の仕組みに共通する考え方はこちら
ある小さな発見
アメリカで暮らしていて面白かったことがある。
時計やカメラに、自分のSSNを刻印している人がいるのだ。
盗まれたときのためだという。
つまりその番号は、持ち物の持ち主を証明するものでもある。
自動車のナンバープレートと同じ様に。
名前ではなく番号。
ここでもやはり、番号が人を代表している。
あるとき思った。
SSNを聞かれるあの質問は、たぶんこういう意味なのだ。
「SSNある?」
それはつまり、
「君はこの社会に参加している人?」
という確認なのだ。
日本との違い
この制度を思い出すたびに、日本のマイナンバー制度のことを考える。
アメリカと日本はかなり違う。
アメリカ
- 1936年から存在
- 民間でも広く使用
- 銀行・信用・契約で普通に使う
日本
- 主に行政用
- 銀行や契約では基本使わない
- 比較的新しい制度
時間の差も大きい。
アメリカは1936年制定。
日本は21世紀。
ほぼ 100年の差 がある。
番号が先に来る社会
どちらが正しいのかはわからない。
アメリカはまず番号。
それから人間。
日本はまず人間。
それから、もったいぶって番号。
どちらの社会にも、それぞれの慎重さと合理性がある。
ただひとつ言えるのは、
1990年代初頭のカリフォルニアで何度も聞かれたあの質問だ。
「SSNある?」
あれは単なる事務的な質問ではなかった。
アメリカ社会という入口で、そっと聞かれる言葉だったのだと思う。
アメリカで番号というのは「社会への入場券」みたいなものなのかもしれない。
今回見たのは、あくまで一部です。
インフラ、制度、日常のあらゆる場面に共通しているものとは?
→ 日米の仕組み全体の違いはこちら
当時のアメリカでは、こうした文化の違いが日常のあらゆる場所に存在していました。
→ なぜアメリカでは水道代が請求されない?
→ なぜアメリカには電線がない?
→ アメリカ郵便の超合理的システムとは?
→ 自販機と公衆電話で見えた日米の合理性の違い