
ESSAY
アメリカで体験した、忘れられない味の記憶——戸惑いと発見のフレーバー
1990年代のアメリカで出会った味の中には、「美味しかった」とは違う形で記憶に残っているものがあります。
それらは、舌が戸惑い、頭が混乱し、けれどもなぜか忘れられない味でした。
日本で育った味覚の延長線上には存在しなかった、説明のつかない味。
今回は、そんな「味のカルチャーショック」とも言える3つの体験をまとめて振り返ってみます。
- ルート・ビア
- リコリス
- ホット・スパイスド・アップルタイザー
どれも最初は戸惑いから始まりました。
そして、不思議と現在も記憶に残り続けています。
ちょっと厄介で、でも魅力的な憎めない味たちです。
なぜその味は忘れられないのか——「違和感」としてのアメリカの味覚
アメリカのスイーツや飲み物は、とにかく「遠慮がない」。
甘さも、香りも、主張が強い。
そしてその主張の方向が、日本人の想像から外れています。
甘いのに爽やかではない。
香りがあるのに食欲をそそるとは限らない。
時には「これ、本当に食べ物?」と一瞬考えてしまうような味さえありました。
それでもアメリカでは、子どもから大人まで当たり前のように楽しんでいました。
つまりそれは、単なる味の違いではなく、「慣れ」の違いであり、「文化」の違いなのです。
外から来た人間にとっての違和感は、そのままその国の日常の輪郭でもあるのです。
戸惑いから始まる味覚の旅
湿布のような味の衝撃——ルートビア
最初の一口で、脳がフリーズしました。
「甘いはずなのに、なぜこの香り?」
——それがルートビアとの出会いでした。
どこか薬品のようで、どこかハーブのようで、さらにほんのりバニラの気配。
決して飲めないわけではないが、積極的にもう一口いこうとは思えません。
しかし周りを見ると、みんなホットドック片手にゴクゴク飲んでいました。
このギャップが面白いのです。
不思議なもので、何度か試しているうちに、「これはこれでアリかもしれない」と思い始める瞬間がやってきました。
最初は拒絶、次に困惑、そしてほんの少しの理解。
この三段階を踏ませてくるあたり、なかなか手強い飲み物なのです。
黒いロープをかじる人たち——リコリス
見た目は完全にゴムかビニール。
しかも黒いロープ状。
これをお菓子として売っている時点で、すでに文化の違いを感じました。
しかも、問題はその味です。
一口かじると、あの独特すぎる風味が広がります。
甘いはずなのに、どこか薬草的で、ほんのり苦く‥‥‥
そしてやはり「これ、知ってる何かに似てるけど何だっけ?」と記憶を探り始めることになるのです。
結論から言えば、日本ではあまり出会わない味でした。
それでもアメリカでは根強い人気があります。
「これが好き」という人が大多数存在します。
この事実だけで、もう一度試してみる価値がある気がしてくるから不思議です。
好きになるかは別として‥‥‥
健康にも良いらしいので、体験しておかないともったいない味なのです。
甘さと香りの過剰さ——ホット・スパイスド・アップルタイザー
コーヒーを想像して口にすると、予想以上の「濃度」でやられます。
甘い、そして香りが強い。
シナモンやクローブといったスパイスが、遠慮なく主張して来ます。
「飲んでいる」というより「スパイスに包まれている」感覚に近いのです。
日本の感覚だと、飲み物はもう少し軽やかで、流し込むものという印象があります。
しかし、これは完全に「主役級」でした。
小さなデザートを飲んでいるような存在感。
最初は少し圧倒されます。
しかし、寒い日にこれを手にしている自分を想像すると、急に魅力的に見えてきます。
味覚というより、シチュエーションごと楽しむ飲み物なのかもしれません。
「まずい」では片付けられない——味覚と文化の距離
これらの味を「合わない」と感じること自体は自然なことでしょう。
しかし、それを単純に「まずい」と切り捨ててしまうのは、少しもったいない気がします。
なぜなら、その違和感こそが、アメリカの人々が日常的に楽しんでいる感覚そのものだからです。
子どもの頃から慣れ親しんできた味。
家族と共有してきた味。
季節やイベントと結びついた味。
それらを一口の味で理解することはできないのです。
——「味の距離」がある。
その距離を楽しめるかどうかで、海外生活の面白さは大きく変わります。
実は、これは味覚や味の違和感だけの話だけではありませんでした。
→ 食感までも違っていた驚きの体験記はこちら
それでも、忘れられない理由
面白いことに、時間が経つと印象は少しずつ変わってきました。
「あれは無理だったよな」と笑いながらも、「もう一度試したらどう感じるだろう」と思い始めるのです。
完全に好きになったわけではないのに、どこか気になる存在になっているのです。
この「引っかかり」こそが、30年以上経っても忘れられない理由なのです。
強烈な個性を持った味は、一度体験すると頭の中に居座り続けます。
そしてある日ふと、また自分から会いに行きたくなるのです。
まとめ——味は文化そのものだった
ルートビア、リコリス、ホット・スパイスド・アップルタイザー。
この3つに共通しているのは、どれも強い個性を持ち、慣れを前提としていることです。
そして、さらに確実に記憶に残るという点でした。
それは単なるスイーツではなく、そのまま文化の断片でもありました。
もし、これからアメリカの食べ物に挑戦する機会があるなら、ぜひ少しだけ勇気を出してみてください。
「美味しいかどうか?」だけで判断するには、少しもったいない体験がそこにはあるはずです。
もしかすると次に忘れられなくなる味は、あなた自身の一口から始まるかもしれません。
今回の味や味覚の「なんでそうなの?」という違和感
他にも、食べ物に関する違和感がありました。
→ 「フライドポテト」ではなかった。Burger Kingでの恥ずかしい体験。
→ 極めて日本的なアメリカのファストフード文化はこちら